◇おかーさんの日記◇
2XX1/6/16
 私の生徒、セレン・ヘイズのリンクスデビューからそろそろ二ヶ月。
 この二ヶ月の間にこなしたミッションの数は三つ。
 BFF社所有のAF(アームズフォート)、ギガベース襲撃作戦。
 GA社の依頼によるミミル軍港襲撃作戦。
 インテリオル輸送部隊のレッドバレー突破支援。
 レッドバレー突破支援では旧式の大型兵器を相手に火力が足らず、想定外の損害を被ってしまった。あの作戦からもう二週間が経つ。中破したストレイドの修理にそれだけの時間が掛かったということだ。
 テルースフレームには実弾攻撃に対する防御が弱いという欠陥が確かに存在している。だがそれにしたってあの程度の旧式兵器に中破相当の損害を被るとはどういうことだ。主砲の射界に入るな。ミサイルくらい避けろ。なんだそのヘロヘロQB(クイックブースト)は。ギャグのつもりか。笑えんぞ馬鹿野郎。ミッション後の私の説教が苛烈を極めたのは言うまでもない。
 とはいえ、あの大型兵器を相手取るには【ストレイド】の火力が十分でなかったのは事実だ。
 セレンのやつは相変わらずASミサイルを活用しようとはしないし、なんだかんだでオーメルからの依頼を受けられずにいたからレーザーキャノンを手配する目処は立っていない。トーラス経由で旧アクアビットのプラズマキャノンでも導入も一時期検討したが、対PA(プライマルアーマー)貫通能力の低いプラズマキャノンという兵装を私はあまり信用していないのだ。
 色々考えた結果、最近になってアルドラがリリースした軽量グレネードキャノンを購入した。対ネクスト戦を想定するには微妙な性能と言わざるを得ないが、ミッションなどで多数の敵ノーマルを相手にするような状況であればそれなりに便利使い出来るものと思われる。アルドラ製品ということでセレンのやつがやや感慨深げにしていたが、まあ大切に扱ってくれるならそれもいいだろう。
 さておき、明日はオーメルのミッション仲介人との顔合わせがある。
 カラードネットを通じて送られてきた依頼状によってミッション内容は把握している。
 オーメルは企業連の顔役。私は権力屋が嫌いだが、権力と繋がりを持っておくことの大切さは分かっているつもりだ。気に食わんがな。
 ま、今後のこともある。この依頼には是非ともいい結果を残したいものだ。




mission.2 > B7襲撃




 メインカメラの映像を最大望遠でズームする。
 ネクストAC【ストレイド】のカメラが捉えたのは未だ所々から燻るような煙を上げ、粉塵に紛れる大規模な施設の影だ。
「目標施設を映像で確認」
 リンクス、セレン・ヘイズは静かに呟く。目標施設はオーメルのアームズフォート部隊の先制長距離攻撃を受け、その地上部における防衛機能の過半を喪失しているようだった。
 ここまではブリーフィング通り、ぺろりと上唇を舌で湿らせる。
 自分に与えられた仕事はここからだ。アームズフォート部隊では侵入不可能な施設内部へと侵攻し、展開する施設内の防衛戦力を排除する。自分の仕事はそこまでだ。防衛施設を剥ぎ取られ丸裸になったこの施設をオーメルがどうするつもりなのか。そこから先を考えるのはリンクスの仕事ではない。 
 ――最深度採掘施設B7。
 旧GAEと旧アクアビットの連合からなる新興企業トーラス社が所有するこの施設は、同社にとって最重要となる施設の一つだ。
 なにしろこのトーラス社、技術はあってもその技術を利潤に還元するための資源がない。その基盤の脆弱さは新興企業ゆえ、という理由ではなく、同社を形成する旧GAEと旧アクアビット、この二つの会社が双方ともにかつてのリンクス戦争において敗北、崩壊させれているという経緯のためだ。両社とも、基盤を元々持っていなかったわけではない。一度失ってしまった物を取り戻そうと足掻いているのだ。
 そんなトーラス社にとって再建なった最深度採掘施設は正に宝、同社の中興へと至る道標と言ってもいい。
『そのB7を横から掠め取ってやろうというのだから、オーメルの底意地の悪さは筋金入りだな』
 B7最下層にはトーラスのコジマ技術研究施設もある。
 オーメルとトーラスの不仲にはコジマ技術分野における競合関係がその一端として存在する以上、オーメルにとって今回の作戦は資源に悩むトーラスに対しての嫌がらせというだけでは済まない。
 トーラスの資源に対してダメージを与える。ついでにその深部で研究している最新技術も盗む。絵に描いたような一石二鳥の作戦だ。
 が、ネクストACストレイドのオペレータ、霞スミカにはそのオーメルの魂胆がお気に召さないらしい。
『まったく、これが統治企業連合の顔役の考えることだというのだから、人類社会に品性を期待するのが馬鹿らしくもなるわけだ』
「いいんですか先生? このミッションの戦闘記録、通信内容のログもカラードに提出するんでしょう?」
 カラードに提出されたログは基本的には部外秘資料として保管され、閲覧には厳しい制限が掛けられる。しかしそのカラード自体が企業によるリンクス統括の下請け組織でしかない以上、企業の人間がその「部外秘資料」とやらを閲覧するのは簡単なのだ。
 企業連に属する企業はその政経軍の戦略を明確化するために戦略研究所を所有しているのが一般的だ。リンクスがミッション毎に提出する戦闘ログは、そうした戦略研究所で念入りに検討され、彼らの今後の戦略を左右する素材となる。
 である以上、ことに今回セレンたちにミッションの依頼を出したオーメル・サイエンス社、彼らが今回の戦闘ログを確認しないはずがないわけで、それはつまりスミカの罵詈雑言を耳にしないはずがないということなのだが――。
 一般的な社会経験など無いに等しいセレンでも、依頼主に対するあのような暴言が彼らの心証を悪くするだろうことは分かりすぎるほどに分かる。そうでなくてもオーメルは企業連の顔役だ、それを斯様に悪し様に罵って見せる霞スミカ。そこに痺れるし憧れもするが、とても賢い言動とは思えない。
『気の小さいヤツだなお前は。フン、心配するな。ミッション開始はB7施設内侵入後ということになっている。今現在の通信記録を提出する義務は無い。お前も愚痴りたいことがあるなら今のうちに言っておけ。お勧めはオーメル上層部への経営批判、環境保全への取り組みが見られない点への糾弾なんかだと尚良しだ』
 動かすだけで地上をコジマ汚染するネクストACを運用している人間の言う台詞じゃないな、と思ったが黙っておいた。まあ確かにオーメルの仲介人の口調は勘に触ったが、別に口に出して不満を表明するほどのことでもなし。
 オーメルの経営姿勢がどうこうよりも、むしろ今現在の霞スミカの不機嫌さを愚痴りたい気分である。彼女がこれだけ不機嫌だと、どんな些細なミスが原因で説教の嵐が吹き荒れるか分からないのだ。正座で三時間コースならまだマシ、土下座で三時間コースは腰にダメージが来るから勘弁願いたい。
 だからまあ、強いて言えば「オーメルめ、よくも先生のご機嫌を厄介なことにしてくれたな」というところなのだが、そんなことを言ってしまえば作戦中のミスを待つまでも無くスミカの不機嫌がこちらに飛び火するのが目に見えている。
『……なにも言わんのか? 詰まらんやつめ、こんなところでオーメル様の得点稼ぎをしても何にもならんぞ』
 見ろ、このご機嫌斜めっぷり。
 沈黙は金、と言う言葉があるが、黙っていてもこれだ。
 旧西暦の時代から人類社会に慣用句として根付く言葉ですら、彼女を枠には嵌められない。セレンは師のドSさに静かなる戦慄を覚えた。


/


「ミッション開始、施設内の防衛部隊を排除する」
 管制室、ヘッドセットのマイクに向かって告げた霞スミカの正面には、彼女がオペレートするネクストAC【ストレイド】のメインカメラが捉えた映像が映し出されていた。
 通常ならばこのオペレート用の複合パネルディスプレイにはメインカメラからの映像だけでなく、ネクストACの周囲に展開した自律観測ポッドからの映像も表示されるのだが、今回は作戦領域が最深度採掘施設B7、つまりは屋内であるため、観測ポッドを飛ばすことが出来なかったのだ。
 リンクスたるセレンにとってもそうだが、オペレータたるスミカにとっても屋内でのミッションは初めて。普段ならば問題なく取得できているはずの戦場の情報がまるっきり欠けてしまっている状況というのは、なかなかにストレスが掛かる。そのストレスが兼ねてよりのスミカの不機嫌を助長していた。
 そもそものスミカの不機嫌の原因は、オーメル・サイエンス社の不遜な態度にあった。或いは殿様商売的な姿勢とでも言うべきか。
 今回オーメル・サイエンス社からのミッション依頼を受けるに当たって、スミカには一つ企図していたことがあった。オーメルとのネクストACパーツの売買契約の締結である。お小遣い制度のせいで今ひとつ思い切ってASミサイルを使えないセレンのために、オーメル製のレーザーキャノンでも買ってやろうかと思ったのだ。
 今現在のストレイドを構成する基本フレームであるインテリオルユニオン製のテルースフレーム、その特性はエネルギー循環系の効率の良さと、レーザー兵器のような非実体弾兵器の扱いへの適正の高さだ。そうしたテルースフレームの特性を考えれば、現状セレンの貧乏性に任せて使いもしないASミサイルを搭載し続けるよりも、一発あたりの威力が高く、弾薬コストも少ないレーザー兵器に載せ代えてしまった方が余程賢い判断だと言えるだろう。
 この考えにはセレン本人はもとより整備スタッフも賛成してくれた。むしろ整備スタッフの方こそが強く賛意を示してくれたものだ。彼らの嫌うものは無駄と、その無駄による統合性能の低下である。使いもしないASミサイルを載せ続けて無駄に機体を負荷を与え続けることは彼らの矜持に悖るのだ。
 だからこそのオーメルへの打診であった。
 オーメルから提示された最深度採掘施設B7への襲撃依頼。
 依頼を受諾することをカラードネットを通じてオーメル仲介人へと打診。
 契約の締結は信用商売の場、いつの時代も締結そのものは直に会い覚書を取り交わして初めて成立する。
 スミカはその場でオーメルの仲介人に売買契約についての提案を行ったのだが、返って来た返事はオーメルの商売人らしい一面からのものではなく、企業連の顔役として君臨する政治屋としての面子に拘る姿勢からきたものだった。
「なるほど、オーメルグループとACパーツ売買に関する契約を結びたいと。畏まりました、その旨はしかと本社に打診しておきましょう。それでは今回のミッションの報酬はコーム(通貨単位)の支払いではなくそちらの意思をオーメルに伝えるということでよろしいですね」
「いや待て、なんでそうなる? こっちはオーメルとパーツの取引についての契約を結ぶ用意があると伝えただけだぞ。ミッションとは関係ないことだろうが」
「そちらには用意があるかもしれませんが、オーメルにはその意思がないということです。それも全くの皆無です。そこを押して売買契約を取り結びたいというのであれば、相応の代償は必要というものでしょう?」
「代償だと? ――いや、そうじゃない。オーメルはこちらと契約を結ぶ意思がないと言ったな。どういうことだ?」
 激しそうになるのをどうにか堪えてスミカは問い返した。
 契約を結ぶ意思がないというオーメル。しかしそれはおかしな話だ。賢明なる経済主体である企業がわざわざ商売の機会を取り逃すとは思えない。
 スミカの強い視線に気圧されたのか、仲介人はぎくりとして身を竦ませる。
 だがそれも一瞬だった。その一瞬の動揺を瞬時にかき消し、銀縁のメガネをかけたオーメルの仲介人は冷徹な企業人としての顔を表に出す。
「オーメルはあなたがたストレイドサイドに面子を潰されたと思っているのですよ」
「面子を潰した? 私たちがか」
「ええ。あなた方がセレン・ヘイズ氏をカラードリンクスとして登録した時のことを覚えていますか? オーメルはあなた方にオーメルグループに属するローゼンタール社、新標準機のランセルの採用を強く推薦したはずです」
 もちろん覚えている。つい数ヶ月前のことだ、忘れるはずもない。
 セレンがカラードリンクスとして登録された際、独立傭兵という触れ込みであったためか、各企業グループからそれぞれ使用ネクストとしてグループを代表する標準機が提案されてきた。
 GAグループから同本社の旧標準機であるサンシャインL型を。
 インテリオルグループからは同社の旧標準機であり、現役時代は霞スミカも愛用したテルースフレームを。
 そしてオーメルグループは、唯一旧標準機ではなく新標準機、ローゼンタール社のタイプランセルを提案してきた。
 もちろんそれら企業グループからの提案を全て断り、完全なる独立傭兵として独自に使用ネクストを模索するという選択肢もスミカたちには用意されていた。その際には恐らく水面下でラインアークあたりから旧レイレナード社のアリーヤフレームなどが提案されていたかもしれない。
 いずれにせよ、それらの選択肢の中でストレイドサイドが選択したのはインテリオルユニオンが提案してきたテルースフレームを使用することだった。
「馬鹿な、確かに私たちはオーメルの提案を蹴ってテルースを選びはしたが、それが理由だというのか!? それで面子が潰れたと!」
「オーメルはそのように考えています。確かにテルースフレームはEN循環効率に優れたインテリオルユニオン初期の傑作機と言えるかもしれませんが、所詮は実弾防御の低さという重大な弱点を抱えた欠陥機です。アサルトアーマーも搭載していない。常識的な判断力があればランセルとテルースとを秤に掛けてランセルを選ばないという選択をするはずがありません」
「テルースを選んだのは私がインテリオルの元リンクスでテルースに馴染んでいたからだ! 実際セレンの訓練もテルースで行っていたし、うちの整備スタッフもみんな元インテリオルの社員なんだぞ。ネクストの戦力はACのカタログスペックだけで決まるものじゃない。カタログ通りのスペックを期待したいならそれに見合った環境を整備する必要があるんだ。逆に優れた環境さえ用意できればスペックで劣るはずの機体がカタログ以上の性能を発揮することもある。ランセルとテルースの優劣を比べてどうこうといった理由で選んだわけではない!」
 デスクを強く叩きつける。示威のつもりではない、素だ。
「まああなた方の立場ではそう仰るでしょうね? ですが企業としてのオーメルが注目するのはあなた方ストレイドサイドがランセルを選ばず、旧式のテルースを選んだという結果のみです」
「結果だけを見て過程を見ずか。マーケティング努力が足りないんじゃないのか?」
「ネクストACだなんて極めて狭い業界でマーケティング努力なんてものが必要だと思いますか? それともオーメルがその狭い業界でマーケティング努力なんてものをしなければならないほどの弱小企業だとでも? 馬鹿らしい。いちいちマーケティング努力なんてことをせずとも、うちの製品が必要になればリンクスは勝手に縋ってきますよ、今のあなた方のようにね」
「貴様……」
 ギリッと睨みつけるが、オーメルの仲介人はこちらを見ようともせず、手元のノートモバイルの光学キーボードを叩いていた。
「いずれにせよ、今すぐの契約締結は不可能と考えて頂きましょう」
 モバイルへの入力が終わったのか、顔を上げる。
 不敵な笑みを浮かべつつ、彼はそのモバイルをスミカの方へと滑らせて寄越した。
 画面上にはテキストファイルがポップアップされている。
『オーメルは、ストレイドサイドが独立傭兵の看板を掲げただけの、実質インテリオルグループの専属リンクスである可能性を考えて警戒している。あなたの経歴、整備スタッフ始め関係者の元々の所属、テルースを選択した事実、セレン・ヘイズ氏の出自・・・・・・・・・・・、それら全てがその可能性を示唆している。オーメルは見極めたいと考えている』
 その内容にスミカは瞠目した。そしていぶかしげに仲介人を見る。
 納得のできる話ではあるが、それをこのような形でスミカに伝える意図はなんだ?
「今すぐは不可能、と言ったな? いずれは結ぶことができると考えてもいいのか?」
 テキストファイルに『なんのつもりだ?』と入力してモバイルを仲介人に滑らせる。
「それがいつになるかは分かりませんがね」
 仲介人も当たり障りの無いことを答えつつキーを叩き、それをスミカに返してくる。
『ローゼンタールからのリーク。ローゼンはオーメルグループ内での立場に不満を持っている。彼らにはオーメル・サイエンスとは別にあなた方と売買契約を結ぶ意思がある』
 スミカはフンと鼻を鳴らした。確かに声を大にして出来る話ではない。
 今のオーメルグループは、元々はローゼンタールグループと称されていたグループ企業内での下克上の結果だ。コジマ関連技術で立ち遅れたローゼンタールをオーメルが食った形になるが、それでもまだ基礎系技術分野においてはローゼンタールがオーメルに優越している。
 コジマ技術。
 今のオーメルグループ内でのローゼンタールの地位を決定づけた唯一つの要素。
 要素としては唯一つだけだが、それが全てで、それが最大の格差だ。
「……」
 スミカは無言のままに仲介人へ視線を送った。
 小さく頷いて見せると、仲介人も小さく頷く。
「それがオーメルの態度だというなら仕方ない。企業は他にもあるんだ、そちらがそう言うなら別の企業を当てにするまで」
「そうですか」
「報酬はコームでいい。今日の話は忘れてくれ」
「分かりました。では今日の話はミッション契約を結んだということだけで報告させてもらいます」
「それでいい」
 荷物をまとめて席を立つ。荷物といっても契約に関する書類を納めたハードケースくらいしかないのだが。
 そのままもう仲介人には一顧だにせず部屋の入り口たるドアを開くスミカに、背後から声が掛かった。
「このような形ではありますが、“オーメルグループ”との繋がりを強くする好機です。そちらにとっても悪い話ではないと思いますよ」
 ちらりと、視線だけで仲介人を見た。
 不敵な笑みを浮かべている男に、勝るとも劣らない不敵な笑みで返す。
「ああ、覚えて置くよ」


/


 両手に装備したレーザーライフル【LR01-ANTARES】を三連射する。
 過たず目標に吸い込まれたレーザーは、実弾防御に一定以上の定評を持つGA製ノーマルAC【SOLARWIND】の装甲を貫き大破させた。
『目標、残り僅かだ。油断するなよ』
「了解です」
 スミカの声に応えつつレーダーを確認。
 レーダーの捉えた標的は隔壁の向こう側だ。熱量から推定してノーマルACが三機とガードメカが恐らく同数。
 ノーマルACはアルゼブラの軽量AC【SELJQ】だろう。ご丁寧に隔壁に沿って三機が横並びに陣取っている。こちらが隔壁を破壊した瞬間を狙い打って一斉攻撃を目論んでいるのだろう。
 馬鹿な連中だ、とセレンは嘲笑った。
 このような閉所でネクストを相手にして、一箇所に固まっていることの危険性というものを理解していないらしい。
 FCSを操作。背部武装を起動する。
「グレネードで隔壁ごと吹き飛ばします」
『いいプランだ。やれ』
「了解」
 隔壁越しに目標を補足。ターゲットは横並びに並んだ三機に中央の機体だ。
「発射」
 トリガーを引く。
 アルドラ製の軽グレネード【GRB-TRAVERS】の弾体は、大型弾頭ゆえの弾速の遅さという欠点はあるものの、ミッション等において低速移動目標や固定ターゲットの破壊には何の問題もない。オーメルとのパーツ売買の契約がお流れになったため、一時凌ぎの兵装としてやむなく購入した品物なのだが、低価格に見合わないだけの性能を見せてくれる。
 着弾、そして爆発。
 有澤重工からの技術提供を受けて完成した兵装という話だが、その威力は本家のそれに僅かに劣るようだ。しかしその威力は軽量のノーマルAC相手には過剰と言っていいだけのものがある。
 レーダーを確認するまでもない。爆炎を破って崩壊した隔壁の奥へ侵入。閉所で炸裂した大規模爆発は密閉空間による反射効果を伴って施設内を蹂躙していた。辺りにはSELJQのそれだけでなく、多数展開していただろうガードメカの残骸が散らばり、燻るような煙を上げている。
 改めてレーダーの反応を確認する。動体反応はもう無い。この施設で稼動している戦力はもはやこのストレイドだけだ。
 小さく安堵の息をつく。
 終わった。今回はミスらしいミスはしていない、はず。先生の機嫌は相変わらず悪いが、自分が怒られる要素はない、はず。
 断言できないところが霞スミカの恐ろしさだ。どんなところから粗探しをして何を理由に説教が始まるか分からないのだ。最近自分が加速度的にヘタレていっている気がする。セレンの悩みは深い。
「先生、全目標の破壊を確認しました」
『ああ、こちらでも確認している。ミッション完了、ご苦労だったな――いや、待て』
 ぎくりとする。
 なんだ、何かミスをしたか。
『敵増援を確認。ノーマル4機、上から来るぞ』
 ほっと息をつく。
 増援か、ならいい。ミッション終了直後の増援よりも恐ろしいものは確実に存在する。
「上から? 地上支援のオーメル部隊はどうしたんですか?」
『突破されたらしい。ザルだなヤツらは。最低限の仕事も出来んと見える。だがたったの四機、やれるんだろう?』
 苦笑が漏れる。
 師の当たり前のような口ぶりは尊大な響きに満ちていた。
 これでやれませんなんて答えた日にはどんな折檻が待っているか、想像するだに恐ろしい。
 残弾を確認、両手に持ったレーザーライフルは右58発、左66発。背部兵装のグレネードもまだ11発の残弾がある。ノーマル四機に叩き込むには過剰だ。やれないはずがない。
「問題ありません。敵増援部隊、迎撃します」
『よし、いい返事だ。B7の構造上、敵部隊はお前のいる層に降りてくるまでに高高度を自由落下してくる。クイックブーストもない棺桶だ。落下してくるところにでかい花火を上げてやれ』
 レーダーに位置情報が送られてくる。
 スミカの指示は的確だ。迎撃ポイントはB7内ブロック405、カーゴフロアに面したリニアエレベータの搬出口だ。ついさっき自分もこの搬出口を使ってこの下層に下りてきた。
「了解しました。迎撃ポイントに急行します」
『ああ、急げよ。さっさと終わらせてオーメルの地上部隊に嫌味の一つでも言ってやろうじゃないか。はてさて、どんな釈明をしてくれることやら』
 このミッションの楽しみはそれだけだな、と嘯くスミカに、セレンは彼女に対して抱く戦慄をより静かに、より深くしたのだった。

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